120rpm

ミル、キク、モノ、コト

終活

家はもうない。
子どもの頃の想い出の家は、親戚筋だが知らない家族が住んでいる。

6年前に父が他界し、母はアパートでの一人暮らしを選んだ。
そのアパートには、ほとんど父との思い出は持ち込まれていない。小さな仏壇に遺影が隠れるように飾られているのみで、写真もほとんどないと思う。

母が語ることは概ね3つだ。

天気
気にしたって天気は変わらないのに、天気予報が始まる時間になるとテレビをつける。

食事
故郷は観光地でもあるので“おいしいもの”も食べてみたいのだが、母はそれを許さず(というか無視して)食事を供する・・・それだけでなく、自分の食事のこと(体に良いとか悪いとか)を得々と語る。


ころりと死にたい。人に迷惑かけずに死にたい。それを度々聞かされるこちらは堪らない。

84歳だが、多少耳が遠い程度で足腰もしっかりしている。
それでも、自転車を手放し(この歳で乗っていたこと自体が凄いのだが)、卓球クラブ通い(彼女はスポーツウーマンだ)を止め、日課は近所の散歩程度か。

段々と行動範囲が狭くなっているようで、話題が上記3点になるのも致し方ないか。

 

ボケているわけではないが、たまに急に結線が良くなる時がある。

77歳の友だちが男を連れ込んで、市の斡旋で入った単身者用の住宅を追い出されたそうだ。そんな話を面白おかしく語っていた。

母は友人に聞いた。

“何でそんなことしたの!?”

“だって、寒いんだもん”

古今亭志ん生かよ・・・。

 

老いても生きることを謳歌する、そんな母でいて欲しい。