太郎という名の猫
遠い遠い過去のことなのに、絶対に忘れたくない大切な想い出。
猫の話。
写真はこの2枚しか残されていない
仲良しだった。転校の多かった自分は太郎だけが心の支えだった。
転校してきたばかりで友だちのいない休み時間の教室・・・そこに貼ってある地図をじっと眺めている。いぶかしげにのぞき込むクラスメート。
じっと地図だけを見つめる。少しでも下を向いてしまうと、涙がポロポロと出てしまうから。
せっかく友だちになっても転校で“さよなら”しなくちゃならなかった。
もう、“さよなら”ばかりで嫌なんだよ。
慣れない学校に行っても、思うことは、早く太郎に会いたい、それだけだった。
後悔することを学んだ。別れの悲しみを学んだ。
猫は死ぬ時に、飼い主から姿を隠すという。
具合の悪くなった太郎、寝込んでしまった太郎。
何とか元気になってほしいと、学校の帰りは、動物病院を探す毎日。子どもの足で行けるところなんて限られているけど、知らない大人に声をかけ、“動物病院を知りませんか?ボクの猫が病気なんです”と聞いてまわる。
遠い昔のこと。今と違って、動物病院なんてそんなになかった。見たこともない病院をあると信じて探していた。
何日かして“桜井動物病院っていうのがあるよ”と知らない大人が教えてくれた。桜井動物病院・・・ネットで確認したら、今も開業していた。評判の良い動物病院のようだ・・・。
まずは、自転車で行って場所を確かめた。
これで太郎は助かる!
家に帰ると、太郎がいない。
“太郎は!?”
“よろよろ出て行ったよ”
“どうして引き留めてくれないの!動物病院、探してくるって言ったじゃん!!”
太郎!太郎!と探し回ったけれど、見つからなかった。
太郎がいなくなった、いわんや死んでしまったなどと受け入れられるわけもなく、10日以上高熱でうなされ寝込んでしまった。
先生が言う。
“この子は優しい子だから”
大人は何もわかっていない。
あれから、50年近くが経つ。
今でも、太郎は生きています。ずっと一緒。