120rpm

ミル、キク、モノ、コト

Now And Then そして 赤盤、青盤

リマスターではない。
リミックスなのだ。

技術の進歩と歩調を合わせて創造のイマジネーションを広げたビートルズらしいなと思う。

デビュー当時、録音機材は2トラック。その後、『Help!』あたりから4トラック、そして『Abbey Road』は8トラックだろうか。

初期でも、一発録りながら、後にオーバーダブのリスクを冒しながらも重厚な音作りをしていた。
4TR、8TRと自分たちの理想に近い音作りが出来るようになることと引き換えに、メンバー間の共鳴は軋轢に変わりライブ感も薄れていったのか。
そんな勝手なセンチメンタリズムには関係なく、数多くの名曲を残し走り抜けた。

 

ビートルズに関してのきわめて個人的な原風景は、幼稚園に上がる頃、近所に自分をとても可愛がってくれていたお姉さんがいた。
大っぴらに聴けないのか、押し入れの中で抱きかかえられながら聴かされたのがLove Me DoだったかShe Loves Youだったか・・・甘美というか淫靡というかそんな諸々が綯い交ぜになったイメージがロックでありビートルズだった。

小学3年生あたりでは居候の大学生の聴く洋楽を聴いていたが、中学に入る頃には、もうビートルズは解散してしまった。

 

さて録音の話だけれど、2トラックでは片方にボーカルやコーラスを入れ、もう片方に楽器演奏を録音する。monoが当たり前だから、ミックスする時に声と演奏のバランスをうまくコントロールできたのだろう。
だが、後年それを違和感のない2chにすることは難しかったと思う。
ステレオ盤も買ったけれど、mono盤が正義という感じだった。

 

ザ・ビートルズ: Get Backを視聴 | Disney+(ディズニープラス)

ピーター・ジャクソン監督『ザ・ビートルズ: Get Back』で使われたオーディオ・デミキシング技術は革命だ。音源分離技術(デミックス技術)で1トラックから特定のパートを取り出すことが可能になった。
先ほどの2トラックで言えば、メインボーカルとコーラスを分離、演奏トラックからギター、ベース、ドラムが分離できる。
録音トラック数の制限で埋もれてしまった混沌とした音の塊を個別に分けられるなんて
・・・初期の作品ほどその恩恵を受けると思い、赤盤は楽しみだった。

 

驚いた。
驚いたというよりも衝撃だった。
自然なステレオ感は予想通りだったのだけれど、それだけではなく、音の分離が衝撃的でいままで親しんできた曲のイメージがひっくり返る。
Now And Thenは新曲だったから、こんなもんかと思ったが、聴きなれた曲は変化の幅が大きすぎて新録?(あるはずないのだが)と思ってしまうほど、それぞれのパートの立ちが良い。

タイトだった。甘っちょろいと思っていた曲がグルーブ感があって黒っぽかったり印象が変わる。それを各曲ワクワクしながら楽しめた。

 

青盤は期待していなかった。当時でも十分効果的な多チャンネル感を実現できていたと思うし、その創意を無にするような大幅な変更はありえないからだ。
それでも各パートの輪郭がはっきりしていて有機的に絡み合うさまは頭がくらくらしてしまうほど刺激的だ。

こういった技術が更に進化すると、当たり前だが、なかった演奏を作れるようになるのだろうか・・・。

倫理観が問われる世界はもうそこまで来てしまったということか。
不思議な感覚に襲われたビートルズのリミックスバージョンだった。

でもいえるのは、mono盤には戻れない体(耳)になってしまったということ。
良し悪しは別にして。