120rpm

ミル、キク、モノ、コト

廃市 - 柳川へ行ってみたくなる -

文学を専攻していた学生の頃、福永武彦が好きだった。『風土』、『草の花』、『廃市』。

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廃市1984

古い歴史を持つ運河の町のある旧家を舞台に、そこを訪れた青年の一夏の出来事を描く。ある日、歴史のある運河の町が火事で焼けたことをニュースで知った江口は、10数年前に大学の卒論執筆のためにこの町を訪れたときのことを思い出す。親戚から紹介された一軒の旧家に泊り込んだ大学生の江口。まだ少女の面影を残す妹の安子。夫がいながら家を出て寺に住み込む姉の郁代……。小林聡美がデビュー作の「転校生」とは一転、正統派美少女を演じているのもみどころ。allcinema

死と背中合わせの逃げようのない孤独と焦燥。戦争がもたらした精神性というものだろうか。

時はもしかしたら止めることができるかもしれない。それでも戻すことはできない。流れゆくばかりなのだ。そう思った。

大林監督の作品の中でも、抑制した映像表現で描き切った傑作だ。
非常にミニマムな世界と描写にひんやりとした圧を感じる。商業映画としての文学作品は数あれど、原作の肌合いにかなり寄り添っている作品は、そう多くはない。どこか製作者の欲が垣間見えて、“そうじゃないだろう”的なガッカリ感が伴う。大林監督が愛した福永作品だったから、その本質的な部分で乖離が起きなかったんだろう。

福永文学を読むように観られる。そして、福永作品を読むと、大林作品のように思える不思議を味わえる。

 

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